ITの分野で、レガシーという表現を聞くことがあります。技術の複雑化や老朽化、保守の難しさなどを含む意味で使われることが多いです。20年ほどでそう呼ばれることもあります。
一方で、レガシー(Legacy)とは本来、 「遺産」「受け継がれたもの」などを意味します。
するとここで「Webはなぜ、すぐ古くなるの?」という疑問がわきます。
ホームページのリニューアルと、技術が支えてきたものの連続性
ホームページのリニューアルは、例えば 以下の方法があります。
- 全てを新しく作り直す
- 中身はそのままで、新しい土台に移す
- 今の言葉や技術で同じ機能を作り直す
この時、
果たしていた機能。
利用者が頼っていた振る舞い。
過去の判断や意図。
運用上の知恵。
次の人が変更できる余地。
これらを考える必要が生まれます。
古い実装を手放しても、必要なものが保たれれば、リニューアルは成功と言えそうです。反対に、画面や機能が似ていても、あるいは新しくなっていても、それまでの重要な意味などが失われてしまえば、成功とは言いにくそうです。このときに大切なのはおそらく、技術が支えてきたものの連続性 という視点です。
Webを、不動産として眺めてみる
Webサイトは、規模が小さいうちは「ページを作る」感覚です。一方で、規模が大きくなるほど、別のものに見えはじめます。そのため、私はWebの管理者を任されて間もない頃、不思議な感覚になりました。
Webが不動産に似て見えたのです。
- 土地にあたるURLやドメイン
- 建物にあたる構造やテンプレート
- 部屋にあたる各ページ
- 導線にあたる通路や階段
- 配管や電気にあたるCMS・データベース・サーバー
- 入居者にあたる運用者や利用者
- 増改築の履歴
- 所有権、管理権限、保守責任
数百ページ規模のWebサイトを扱う頃には、「文章の集合」というより「継承」という感覚が浮かびました。個々のページの内容より、
「何がどこにあり、なぜそうなっていて、誰がどう直せるのか」が切実になるからです。
長い運用のなかで、理由が蓄積する
私が感じた「継承」は、古いものをそのまま残す感覚ではありません。
長い時間の中で
何を変えてよいか。
何を変えると全体が壊れるか。
形式の奥にどんな意味があるか。
例外をどう扱うか。
次の人へ何を教えなければならないか。
そうした蓄積に触れる感覚でした。
また、大規模なWebサイトでは、一見、不要に見えるページや古い構造でも、長い運用のなかで、理由が蓄積されていることもあります。
例えば新しく担当した人が、「不要だろう」と整理をすると、後になって初めて、果たしていた役割が分かることがある。古いから重要なのではなく、長い運用の中で、来歴があるから慎重になる。
意味が重なっているから乱暴に扱えない、という感覚です。
ひとつのサイトに、社会や歴史の問題が一式現れる
Webサイトを長く運営すると
創造、所有、利用、維持、改修、記録、
権限、費用、教育、継承、廃棄、復元。
これらがサイトの中に、次々現れます。
すると、Webは新しい技術の分野でありながら、
非常に早い速度で「受け継いだものをどう扱うか」という問題に直面します。
20年ほどでレガシーと呼ばれることさえある理由は、
Webが短い時間で、このような来歴を重ねる性質にも関係していそうです。
今を成立させながら、過去を失わず、未来を狭めない
それでは、これらに対して具体的に、
どのように取り組むと良さそうでしょうか。
それは、
今を成立させながら、過去を失わず、未来を狭めないこと。
個別の技術や方法というより、
時間の中で物事を扱うための、原則にありそうです。
もちろん、技術は変わります。
CMSは変わる。
言語は変わる。
保存媒体は変わる。
仕事の進め方も変わる。
けれど、
何を受け継ぐべきか見極める。
元の意図を勝手に消さない。
変更の履歴を残す。
今の必要へ対応する。
次の変更を不可能にしない。
こうした原則は、ほぼ変わりません。
また、サイトを取り巻く世界も、同じ速度では変化しません。
異なる時代のものが、一つのサイトに並存する。
昔のものが残ることも自然です。
長く使えば時間の層もできます。
問題は、何が今も必要なのか、何が役目を終えたのか、
区別がつかなくなることです。
そのため、いくつもの時間が重なった状態を読み直し、
今へつなぎ直すことが、重要になる。
受け継ぐものを、止めずに更新する
歴史や文化というと、大きな理念や象徴を想像しがちです。
でも少なくともWebの分野では、
「受け継ぐものを、止めずに更新する」姿勢は、
小さな行為や、判断の積み重ねから現れます。
守るだけでは、現在に対応できない。
変えるだけでは、蓄積を壊してしまう。
何を変えてもよく、何を失うと別物になるのか。
リニューアルの役割は、
最高性能に置き換えることだけではありません。
過去に生まれた価値を、現在でも使える状態へつなぎ直すこと。
デザインワークス キッカでは、
作るときだけではなく、変えるとき、残すとき、手放すときまで、
判断を、制作の一部として考えています。

